はじめに
飲食店経営において「売上が足りない」と感じたとき、感覚だけで対策を打つのは危険です。
まず把握すべきは、自店の損益分岐点、すなわち赤字にならないための最低売上ラインです。
これを正しく計算できれば、「あといくら売れば黒字になるのか」が明確になり、日々の目標管理や戦略立案に直結します。
本記事では、損益分岐点の計算方法と目標売上の決め方、さらに改善のヒントを解説します。
損益分岐点とは?
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになり、利益がゼロになる売上額のことです。
このラインを下回ると赤字、上回れば黒字になります。
損益分岐点の計算式
基本式は以下の通りです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 − 変動費率)
- 固定費:家賃、人件費の固定部分、水道光熱費の基本料金、保険料など
- 変動費率:売上に応じて増減する費用の割合(食材費、ドリンク仕入れ、歩合人件費など)
損益分岐点&目標売上 計算ツール
この計算ツールの使い方
自店の損益分岐点と毎月の目標売上を、固定費・変動費率から簡単に算出します。
月間固定費を入力します。家賃/人件費の固定部分/基本料金などを合算。
変動費率(%)を入力。例:原価30%+歩合5%=35%
安全マージン(%)を任意で設定(推奨10〜20%)。
営業日数/席数/客単価も入力すると日販や必要客数が算出されます。
「計算する」で結果を確認。やり直しは「リセット」。
例:家賃30万円のカフェの場合
- 家賃:300,000円
- その他固定費(人件費固定部分・光熱費基本料など):200,000円
- 変動費率(原価+歩合給):35%(0.35)
固定費合計=300,000円+200,000円=500,000円
損益分岐点=500,000 ÷ (1 − 0.35)
損益分岐点=500,000 ÷ 0.65 = 約769,231円
つまり、このカフェでは月77万円以上の売上がないと赤字になる計算です。
毎月の目標売上の決め方
損益分岐点を把握したら、実際の目標売上は**+10〜20%上乗せ**して設定するのがおすすめです。
理由は、予想外の経費増や売上の季節変動にも対応できる安全マージンを確保するためです。
目標売上 = 損益分岐点売上高 × 1.2
先ほどのカフェの場合:
目標売上=769,231 × 1.2 ≒ 923,000円
損益分岐点を下げる方法
- 固定費を減らす
- 家賃交渉、サブスク解約、人件費シフト見直し
- 変動費率を下げる
- 仕入れルート変更、メニュー原価率の改善
- 売上構造を改善する
- 客単価アップ、回転率向上、テイクアウト追加
よくある質問(損益分岐点・目標売上)
計算式の使い方や設定値の考え方を、よくある5つの質問で整理しました。
原価(フード・ドリンク)+出来高や歩合など、売上に比例して増える費用を合算し、売上で割った割合です。
- 例:フード原価30% + ドリンク原価5% + 歩合2% = 37%
- 月次での実績比率を使うのが正確。季節差が大きい業態は四半期平均も検討。
固定費は売上に関係なく発生する費用。家賃、減価償却、通信、保険、サブスク、人件費の固定部分(店長固定給・最低保障シフト)など。
- 時給スタッフはシフトが売上で増減するなら変動費寄りとして扱うと精度UP。
- 迷う費目は「売上0でも必要か?」で判定。
一般的には10〜20%が目安。相場変動やキャンセル、天候不良に備えるバッファです。
- 変動費率が高い業態/原価の振れ幅が大きい場合:15〜25%
- 安定業態・定期予約が多い場合:5〜10%
基準の年間損益分岐点を決め、月次は昨年同月×成長率や商圏イベントを加味して目標を配分。
- 月次目標=年間目標 × 月次重み(昨年実績比)
- 閑散期は販促強化より費用の弾力化(可変シフト・仕入れ調整)を優先。
次の優先度で見直すと効果が出やすいです。
- ① 変動費率:仕入れ、ロス、原価設計(看板商品以外の原価最適化)
- ② 売上構造:客単価(セット化/価格表示)、回転率(導線・会計)、稼働時間
- ③ 固定費:家賃交渉、サブスク削減、シフトの固定化見直し
まとめ
- 損益分岐点は、経営判断の基準となる重要な数値最低限の売上ラインを把握することで、赤字回避や経営計画の精度が高まる。
- 固定費・変動費率を正しく把握して計算する数字の根拠が明確になり、改善対象を正確に見極められる。
- 目標売上は安全マージンを含めて設定する急な経費増や売上減にも対応できる余裕が生まれる。
- 費用削減と売上改善の両面からラインを下げる努力をする固定費削減と収益増を同時に行うことで、利益率を効率的に向上できる。